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田舎暮らしに切り替えたきっかけは「ドクターストップ」
ー今日は宜しくお願いします!
山口:うわ〜、今オレ、緊張ピークに達してんねんけど(笑)。
ー元々のお仕事はデザイナーってお聞きしてました。
山口:そうそう、フリーランスの工業デザイナー。車、橋梁、雑貨……立体のデザインをしてた。商品企画も仕事のひとつ。「ゼロからモノを作る」ってデザインかな。自分で勉強してWebデザインもしてたよ。
ー今はやってない?
山口:もう完全にリタイヤしたな。仕事も全部やめてきた。
ーなぜ田舎に移住したんですか?
山口:ドクターストップがかかったから。最後は工場で働いてたんやけど、その仕事が身体的にハードやった。それで膝がアウトになってね。家の近所のクリニックに通い始めて2週間ぐらいのレントゲンで「山口さん、足首が折れてるわ」って。
クリニックから紹介してもらって、総合医療センターに行って。「この膝はステージ4やで。明日にでも手術せなアカンで」って言われて。「仕事なんてムリ、辞めなさい」って。はっきり言われた。
医者が、仕事辞めなさい、って、こんなにハッキリ言うんやな〜って思ったわ。だって、個人的なことやん?仕事辞めてどうやって生きていくねん、って言う話やんか。それよりも人命が優先、みたいな感じだった。
ードクターストップがかかったときに「田舎暮らしにシフトチェンジしよう」と思った?
山口:そうね。趣味が単車とか車で、ワインディングロードを走るのが好きやから。でも大阪の家からワインディングロードに行こうと思ったら、市街を抜けていかなあかん。あれがイヤでイヤで。
目的地に何時間も掛けて行って、目的地で走って。その後に、また街に戻ってくる。それがイヤで「山の中に住みたい」と、ずっと思ってた。で、現在に至る、です(笑)。
日高川町の道と家が気に入った
ー日高川町に住もう、というよりは「山に住みたい」と思って、和歌山で家を探してた?
山口:いや、そうじゃない。どっちかと言うと、岐阜あたりの道が好きだったから、そのへんに住みたかったんやけど。なかなか物件がないし、探しに行くのもめんどくさいし。
(奈良県の)吉野あたりも探しに行ったんやけど、見に行っても全然、良い物件に出会えなかった。
嫁は元々不動産屋だから、物件見るのがスゴイ好きなんよ。オレ一人で住むのに、勝手にいろんな物件を見てて(笑)。「こんなとこあるで〜」って教えてくれたんが、日高川町。日高川町は他と比べて空き家バンクの登録数が多かったからね。ほんで見に来たん。
山口:自分の頭の中では「和歌山」は移住の候補地ではなかったんやけど。嫁が物件を見つけてきたから、それなら行ってみようかって。実際に日高川町に来て、車で走ったら、まず道が気に入った。とにかく国道424号線がめっちゃ気に入ったんよね。
岐阜を走ったときと同じ感覚があったから。「なかなか良いな〜」と思って。で、この物件を見たら一目惚れ。「もう、ここしかないな、ここでええな」、って思った。
山口:引っ越しは、業者に頼まんと自分一人でやりきった。軽トラで大阪から20回くらい荷物運んだんかな?でも、移動距離が苦にならんかった。
岐阜あたりに移住してたら、自力での引っ越しは出来へんかったからね。だから日高川町への移住は正解だったと思うよ。
何の違和感もなく住まわせてくれる土地
ー今、奥さんとは一緒に暮らしてないんですよね?
山口:暮らしてないよ。大阪に居る。別居やな(笑)。
ー奥さんは田舎暮らしには好意的ではない感じですか?
山口:当初、オレが田舎暮らしの話をしたときは「ぜったい嫌!」やったけどね。でもこの物件を見て、オレが住み始めたところに来たら、180度変わって「ここに来たい!」って今は言うてるよ。ころっと考え方が変わってもうて。もしかしたら、来年、再来年あたりには、嫁はんも移住するかもね。
ー新たな暮らし、楽しみですね!近所の方との交流が色々とあるとお聞きしました。この地域は住み心地がいいですか?
山口:そうね、なんていうのかな。ふつうに、何もなかったかのように自分を受け入れてくれたからね。「昨日も居ったやろ?」みたいな感じで。仰々しい感じがなにもなかったから。温かく、でもない、冷たくもない(笑)。ほんま、すんなり受け入れてくれた。
ーでも、それって、けっきょく「あったかい」ですよね。
山口:そうやね、そうやと思う。地域の人が自分に気を使ってくれたんやと思うよ。
移住してよかったことは「自然」がそばにあること
ー移住して良かったこと、嬉しかったことはありますか?
山口:ウグイスの声で目が覚めて、川のせせらぎを子守唄にして。朝起きて、ガラッと窓を開けたら山が見える。それかな。
ー自然に毎日、癒やされる?
山口:そうそう。アナグマくんに出ていってもらうのも、けっこう楽しかったしな(笑)。
ー家にアナグマが住んでた?
山口:オレよりも先に居った。先住者やったからな!(笑)
ーアナグマには、どうやって出ていってもらったんですか?
山口:林業用のキツイ蚊取り線香を使った。獣は煙が嫌いだから。家の裏、石ごっつい積んでるやろ?あそこに穴掘られたんよ。最初、簡単に止めてたらまた来られて、掘られて。
アナグマが家から出ていったところを見計らって、河原から石を思いっきり運んで、思いっきり積んだ。
山口:あいつら、溜め糞するんよ〜。だから臭くて。すんごい死臭みたいなんがしてね。だから、アナグマはエサと糞を一緒に持ってきたんかな?って。
住みだした頃は、ぎょうさん訪問客来たよ〜。あ、獣の訪問客な!(笑)知らん間にいっぱい訪れてきてくれてるよ〜。一人住まいやけど、一人ちゃうな〜って。ホンマ思ったよ。
ー寂しくない(笑)。
山口:夜になって、オレが部屋を移動したりするやん。歩くたびに、ガタッ、ダダダッ、ドタドタッってみんな逃げていこうとするわよ。テレビ見てたら、突然ポトンとムカデが落ちてきたり。ムカデだけは堪忍してやな〜!
ネズミは可愛かったけどな〜。ハツカネズミみたいなちっちゃいやつな。それがチョロチョロ、チョロチョロ。単車の下でポケ〜っと座ってて。「おい!」って言ったら、チョロチョロチョロチョロ〜って。
ーネズミって人間を避けるじゃないですか?山口さんはネズミと友だちになってるみたいですね!
山口:いやいやいやいや!舐められてるんかも(笑)。ホンマに追いかけっこしたもん。台所の真ん中にへっついさん(かまど)あるやん?あそこをグルグルグルグル……何周すんねん!って。
プッ!って停まったら、また反対側から見てる、隠れてな。追いかけたら、また反対側から見てる。コイツ、舐めてるわ〜って思う。
ー舐められてますね〜!(笑)
山口:でも最後は、粘着シートで退治した。
ー粘着シートが一番ですね!
山口:な!うまいこと引っかかるんやな〜!あと、ヘビな。水甕の中に落ちてた。
山口:ヘビが入ってこんように、ツバメの巣も住まれへんようにしてるんやけど。いっぱい家ん中入ってくるよな。なんでやろうな〜?
元々「やる」と決めたらやるタイプ
ー仕事をリタイアして膝の手術するときには、すでに移住の準備も進めてたんですか?
山口:ぜんぜん進めてない。入院中に「仕事辞めてリタイアするんなら、これからどうしよう?」って考えた。収入がなくなって、家のローンは誰が返すん?ムリやなって思った。だったら、家を売ってしまってどっか行っちゃおう!って。
ー病気で仕事ができなくなったことで自分の気持ちを整理したり、本当にやりたいことは何か?と考え始めたんですね。
山口:そうそう。だから、自分が思い描いてた老後よりは時期がちょっと早まったけど。もう、これが田舎暮らしするきっかけやな、って。そう思ったら、行動するのが早かった。
2019年12月25日、クリスマスの日に手術したんよ。ちょうどクリスマスに手術の枠が空いてたから(笑)。2020年の1月末くらいに退院して、家で2ヶ月くらい療養して。3月には移住の準備に日高川町に走ってきた。で、5月には家を決めて6月には住んでんねん。
ー奥さん、よく協力してくれましたね!
山口:そうね~、渋々やと思うけどね〜。妻とはだいぶと揉めたよ(笑)。大阪の家は、夫婦で考えて建てた家やから。売らずに、俺だけが日高川町に移住する、って話にしてた。オレは「移住する」と決めて、引かんかったから。
「こう」と決めたら、こうやからね、オレは。ガマンして諦める、ってのが一番嫌いやねん!やれるんなら、とことんやったらええやん、って。欲しかったら買えばええやん、手に入れる方法を考えればええやん、って思うタイプやから。やらずして後悔するってのが一番嫌いやねん。
日高川町は強い目的がなくても住み続けたくなる場所
ー山口さんの生き方、かっこいいです!それが、みんな分かっていても、けっこうできなかったりするから。
山口:簡単やで!自分が動くだけやで!みんな、失敗することを怖がんねんけど、失敗も楽しいよ〜!(笑)。失敗するから次がある、っていうかな。そりゃ、そのときはへこむし、落ち込むよ。でも、あかんかった経験があるからこそ、新しいことを思いつくことだってあるよ。
失敗したときは、神様が「お前、今は辞め時やで!」、って言うてんねんなー、って思うようにしてる。
ーそういう生き方をしてきたからこそ、田舎暮らしへライフスタイルを変えることにも抵抗はなかったわけですね?
山口:ぜんぜん無かった。でも、建てた家を手放すこととか、先祖から継いだ土地を手放して家を売ることってだいぶ後悔するかもな、と思ったけど……無いな〜!(笑)
ーないんですか!(爆笑)
山口:ケロッとやな〜。親父に怒られるかな?って頭をよぎったけど。一瞬だけやな〜!
ーじゃあ、山口さんがここから、また何か思いついたら、行動に移すかもしれませんね!
山口:そうやね〜どうなるんやろうね〜自分でも分かりませーん!(笑)
ー奥さんが一緒に住むことになるかもしれないし!
山口:そうそう。今、移住が流行りやん?みんな、農家したり、店出したり。みんな、夢を描いて移住してるやん。俺は何もないからな〜。
ー意気込んで移住することだけが、移住スタイルのすべてじゃないですよね。
山口:そういう、何もなかった人を留まる気にさせる、日高川町のロケーション!ってことやな!
ーそうそう!それが日高川町の魅力ですよね!
日高川町にはこのままでいてほしい
ーこれから山口さんがしたいことは、何かありますか?
山口:もう一軒、家が欲しくなってる。セカンドハウス、モアロケーション。山脈が連なったり、遠景が被っているような、そういう景色が見たい。
自然の山やから、木がずんずん伸びてくる。空が狭くなる、ってほどではないけど、山が迫ってくるから、遠景とは程遠い。この景色は、これで好きなんやけど。そういうロケーションの家も欲しいと思ってる。
ーもう、住む家は決まってる?
山口:ぜんぜん、いっつも気まぐれやから。無計画が計画やからな、オレの場合!
ー日高川町に「もっとこうなってほしい!」という思いはありますか?
山口:もう、何も変わってほしくない。俺は、このままでいい。このままが良いから、日高川町に居てる。それが変わったらイヤだから。
ただ、周囲の人たちの生活があるからさ。その生活をちょっと支えるレベルで、なにかできたら良いな〜って思ってる。例えば、公園を有料化してみんなが管理人を持ち回ることで、少しでも経済が回る仕組みを作る、とか。それで十分すぎると思ってるよ。
山口淳(やまぐちあつし)さん
大阪府泉大津市で生まれ育つ。フリーの工業デザイナーとして長年働いていたが、持病の膝の手術をきっかけにリタイア。療養中に今後のライフスタイルを見直し、田舎暮らしを決意。物件探しの中で、日高川町の現在の住居に出会い、ひとめぼれ。2020年5月に、単身で日高川町へ移住。趣味のバイクや車を楽しみながら、田舎暮らしを満喫している。
インタビュアー
佐藤礼(さとうあや)
岩手県奥州市出身。2021年2月に日高川町へ単身移住。移住後に自身が感じた日高川町や田舎暮らしの良さを伝えたい!とインタビュアーとして活動中。ライター、看護師、農業、SNS運用などパラレルワーカーとして人生を楽しんでいる。
田舎暮らしで避けては通れない、獣や虫のトラブル。そのエピソードすらも面白く笑いに変えて話してくれる山口さん。そんな田舎暮らしの楽しみ方や、山口さんの潔い生き方。インタビュー開始時は「緊張するわ〜」と話しながらも、ユーモアと優しい笑顔で、田舎暮らしや生き方のヒントを教えてくれました!