農業に興味のある方は、「日高川就農ガイド」を見てね。

脱サラし川漁師として第二の人生を生きる。日高川のアユの魅力、田舎の川遊びの楽しさを伝えたい!

おとり屋の前に男性2人が立っている

日高川町役場からクルマで1時間ほど走った、日高川の支流付近にある寒川(そうがわ)地区。元々、おとり屋だった小屋を活用し「川漁師なおべ」と看板を掲げ、2020年から川漁師をしている保田さん。インタビュー開始前から、すでに地元の釣り仲間との賑やかなお茶飲みがスタートしていました。その後も、ひっきりなしに釣り仲間が訪れる、ワイワイ明るい空間。「寒川のアユは美味しいんやで!」たくさんの方がインタビューに協力してくださり、川釣り川遊びの魅力を熱く語ってくれました!

(日高川町在住の寒川さん、森岡さん、林さん。大阪市在住の山本さんファミリー、ご協力ありがとうございました!)

 

なぜ脱サラして「川漁師」になったのか?

元々は公務員として27年間お勤めだった、とお聞きしました。脱サラ、思い切りましたね!(笑)

保田:思い切りましたね〜(笑)。川漁師って全国的に珍しいのよ。求人にもない仕事でしょ?僕の親父は釣りはしなかった。だから僕の師匠は、僕のじいさん。じいさんが田舎の山遊びを教えてくれた。

保育園の頃は、自分で山なんて登れないじゃないですか?(笑)だから、じいさんが僕をおんぶして山を登ってくれて。マツタケ採りに連れてってくれた。川遊びも教えてくれた。

自分ひとりで釣りに行きだしたのは、小学三年生。当時、小学生だから良い道具は持ってないし、交通手段もないから寒川にある川魚で遊んでた、って感じかな。

おとり屋近くの日高川。透明度の高い川と山の緑、空の青のコントラストが最高です!

 

脱サラするきっかけは何だったんですか?

保田:僕の親父も公務員だったんですよ。公務員って、早く死ぬ人がめちゃくちゃ多いんですよ。ずっと仕事だけ頑張って好きなことは全くせずに。

僕の先輩でも退職を待たずに死んだ人も居るし、定年まで働く、って言って61、2歳で亡くなった人もいた。そんな人たちを見て「役場で働いて、何にも好きなことせずに死ぬのもな……」って思ったのは、実際あった(笑)。

だから、けっこう早い段階から奥さんに「わいは、早よ辞めるで〜」って洗脳しよったんですよ(笑)。

森岡:よく嫁さんがOKしたな〜って思ったもん(笑)。

 

保田:公務員の時代でもウナギ漁をやってたから、毎日朝4時半に起きて川に行って。それから仕事に行くから、7時には役場におった(笑)。

ー趣味だった釣りを仕事にしてから、しんどさも増えましたか?

保田そらしんどいで〜!(笑)でも、公務員してたころより、身体はよく動く

ー公務員時代よりも生き生きしてますか?(笑)

保田:生き生きしてる?(みんなを見渡し、みんな頷いている)みんな、生き生きしてる、って言うんよ〜。「役場辞めて、良い顔しとるな〜」って。僕、しんどいんやで!って言い返すんやけど(笑)。変なストレスは無いわな〜。

川での漁を楽しむ保田さん

 

ー思い切って川漁師になってよかった、って思う?

保田:思うな〜(即答)。魅力的やしな。いつか誰か雇えるようになって、釣りを継承できたらいいな、って。それが一番の理想。

特徴は香り!寒川ではアユ本来の香りが楽しめる

保田寒川のアユは、ほんま美味しいんやで!おっきく書いといてよ!(笑)僕ら、子どもの頃は「うるか」ってアユの内臓を食べたんですよ。それが美味しい。

ー川魚の内蔵を食べるってビックリです!それはやっぱり水がキレイだから、ですよね?

保田:そう。水がキレイじゃなかったら「うるか」は食べれん。内臓に泥を持ってるから。アユは苔を食べるから、ダムの影響があると内臓に泥が混ざったりする。やっぱり、きれいな水だとアユの香りが違うよな〜?!

森岡:ちゃうねー!

ー「香り」って、どう違うんですか?

保田:アユは瓜の香りがするんよ。スイカみたいな。瓜くさいのが苦手な人は、嫌いかも分からんけど(笑)。

ダム上流のアユの方が、アユ本来の香りがキツイんですよ。アユを持っただけでわかる。下流のアユは、そこまでの香りがないかな。

 

ーアユは「香魚」っていうんですよね?

保田:そうそう!香りは水質によってぜんぜん違ってくる。ダムの上流でも、やっぱり寒川のアユは香りが良い。

釣りにこだわる人は、日高川の広いフィールドの中でも「寒川でしかアユ釣りはしない」って人が何人も居る。

釣り人でも、二手に分かれる。アユを食べたい人は基本、ダムから上流に釣りに行く。水がキレイやから。大きな魚を釣りたい、とか、釣りを楽しみたい、っていう人は、ダムから下流でもいい。

寒川のアユ

 

ー養殖と天然のアユの味は違う、と聞きました。

保田:うん。養殖は脂っこい。スーパーに売ってるアユは、ボテボテに肥えてるな。川の石についてる苔を食べてるわけじゃなく、固形のエサで太らせてるから、やっぱり違う。焼いたときの脂の落ち方、色も違う。

ー日高川で釣ったものには養殖は混ざってない?

保田川から釣ったアユはぜんぶ天然だよ。海産アユを組み上げて漁協で養殖する。その後にアユを川に放流しても、それは天然やから。

ーそれも天然なんですね!養殖は、いけすの中でずっと育ったもの?

保田:そう。漁協でいけすの中に飼ってるアユをそのまま出荷してる。いけすで育ったアユを各河川に放流して、そこで川の苔を食べて育ったアユは天然になる。

あとは、アユが遡上(そじょう)してくるのを汲み上げて、そのままダム上流に放流するのも天然やね。

ー実際、釣り人は天然と養殖の見分けはつく?

保田:見たら分かるで〜。アユの顔を見たらわかる。あとヒレを見れば分かるよ!

わざわざ来たくなる「寒川アユ」の魅力

[大阪在住の山本さんファミリーが来店される

保田:僕の弟子3号です!アユ釣りを始めて、もう5年くらいになるんかな?今日は日高川に泊まりで釣りに来たんよ。

ー「なおべ」はどうやって知ったんですか?

山本:昔住んでいたところに、僕らの行きつけの居酒屋さんがあって。店主の釣りの師匠が保田さんだったんですよ。その居酒屋のアユ釣りイベントで、初めて保田さんと知り合って。

ー居酒屋のアユ釣りイベント!楽しそうですね〜(笑)。

山本:楽しかったです!そこで夫婦で指導を受けて、アユ釣りをしたのが最初でしたね。

ー元々、釣りはしてたんですか?

山本:結婚してから夫婦でやり始めました。防波堤のサビキ釣りとか、簡単な海の遊びから始めて。アユ釣りイベントがあってからは、ずっとアユ釣りをしてます。

釣って楽しいし、食べて美味しいし。今日はプールを持ってきたんで、子どもに生きたアユを触らせてあげたいな、と思ってます。

おとり屋の前で男女が立っている、男性が赤ちゃんを抱っこしている
保田さんの弟子3号の山本ファミリー

 

ー日高川町のアユの魅力、釣りの魅力ってなんですか?

山本:やっぱり、寒川のアユは美味しいです。この前、別の地域に行ったんですけど、うちの2歳の子どもが、そこのアユを食べなかったんです。

スイカの香りがしなかったですね。寒川のアユは、顔を近づけると本当に瓜の香りがするんです。

ー2歳児が本能的に「寒川のアユはおいしい!」と感じてるんですね!(笑)

保田:僕はこの寒川アユの香りを売りにしたいんやけどね(笑)。アユ本来の、独特の香りがいい。

僕自身は寒川で生まれたから、これが当たり前の感覚で育ってる。こうやって県外の人がおいしいって言って来てくれるのは嬉しい。

 

子どもたちに釣りの楽しさを知ってほしい

保田:僕らが小学校のときに「しらはい釣り」(地域によって「ハヤ」「ハエ」と呼ぶ魚)の大会があった。今は無いんやけど。

面白かったな〜。ソーセージ、ご飯粒、何でも食うしね。エサに寄ってきて、大きな塊になるんよ。それを網で捕る。

ー子どもの頃の釣りは楽しかった?

保田おもしろかった!な?子どもの頃、楽しかったよな?(みんな頷く)

森岡:3、4年前、うちの孫が魚のつかみ取りに来て。釣り大会に連れて行ってあげたら喜んで。今でも「また行きたい!」って言う。やっぱり、一回釣りの経験をさせてあげるのは大事よな。

保田:1回、川の遊びを子どもたちに覚えてほしいんよな。テレビゲームよりええで〜(笑)。

 

森岡:うちの息子が小さい頃、ウナギ捕りを経験させたんですよ。夕方、石に「ガチ(ハゼ)」をくくりつけて、川に放りこんでおくんですよ。そしたらウナギが掛かってる。

保田:寒川あたりの独特のとり方やな。レンガくらいの石に糸をくくって、針だけ1本出しとく。そこへハゼをつけるとウナギが釣れる。ワナを上げるのは早朝。遅くに行ったらウナギが巻き付いて死ぬ。

森岡:息子はその日の夜、ワナを上げに行きたいから寝つけなくて(笑)。「早よ寝ろ〜!」って言っても、寝ないんですよ(笑)。

朝、水中メガネをかけながら、僕の後ろからついて来て。息子にワナを見せると、息子は水中メガネで川をのぞいて。そしたら大きいウナギがかかってた。それを捌いて、照り焼きにして食べさせた。

後にも先にも、その一回だけだったんだけど。息子は未だに言いますね、「あのときのウナギが美味かった〜!」って。

いけすの中のウナギ

 

保田:ウナギのワナを上げる瞬間はワクワクするで〜!子どもは楽しかったことを覚えてるんやろね。田舎に居るんやったら、川遊びの経験をしてほしいなって、ホンマに思う。

僕らが子どものときって、プールなんて無いやないですか。泳ぐって言ったら川。泳ぐ場所に赤い旗が立ってて、地区ごとに泳ぐ場所が決まってた。

今ではまったく無いですからね。僕も自分の子どもに川泳ぎに行けって、言えない

ーやっぱり、それは川が危ないから?

保田:そうやね。僕も川津波にあったことあるし。でも、僕らの親はそういうのなかった(笑)。今は時代が変わったね。田舎の楽しさを知っておいて、その後に都会に行くのは良いと思うんよ。

ー保田さんが釣りを仕事にする、って思ったのは、釣りや川遊びの楽しさを広めたい気持ちもあった?

保田:そうやね。広めたいっていうのもあった。

 

ーもし、この記事を読んで「子どもに教えたい」って人がいたら対応可能ですか?

保田対応させてもらいます!釣り仲間、こんな変なやつらがいっぱいおるし(笑)。みんなに協力してもらいながら。継続して教えるようなら費用は考えていくつもり。

ー都会の人向けには、値段設定してあると利用しやすいかもしれませんね。

保田:続けて教えるなら、金額を決めた方がスムーズに行くかもな!

「川釣り」を仕事にする難しさ

ー川漁師を始めて、ぶっちゃけ……収支はどうですか?(笑)

保田:そりゃ公務員と全然ちゃうわ(笑)。やり方によっては稼げるんやろうけど、自分一人でやってるから、出来る範囲が限られる。

一昨年、ふるさと納税の返礼品としてウナギを出したんよ。一昨年はウナギがよく捕れた。でも、去年はさっぱり捕れなくてね。捕れなかったら、お客さんにずっと待ってもらう形になるでしょ。それも悪いな、って思って。

奥さんにも川漁師になる前に、だいぶ言ったんよ。川漁師は求人にもない仕事で魅力的な仕事だし、自分の頑張り次第で稼げる仕事だ、って。

ただ、漁師をスタートしたのは2020年3月以降。コロナと同時期。いろんな規制があるから、お店が動かないじゃないですか。魚を捕っても店が動かないと、どうにもならない。

今は、一番悪い状態を経験したから、これ以上悪くなることは無いな、って思ってる。

一人だから営業まで、手が回らないんですよ(笑)。魚を捕るのは捕るけど。その辺が大変かな、今でも。

捕れた魚は真空パックで配送

 

ー正直、釣り好きの移住者の方が川漁師として生計を立てていくのは現実的だと思いますか?

(釣り好きの皆さん一同):それは無理やね〜!(笑)

保田:人によると思うけど、僕はムリやと思う。

寒川:釣りで生計を立てようと思ったら無理ですわ。釣っても販路がなければ金にならんからな。販路を探すのが大変や。

ーもし、販路先が見込めたら、可能性は低くはない?

保田:でもその日のノルマがある。この数を釣らないといけない、っていう量が出てくると思う。

寒川:それもあるけど。自分で釣らなくても、釣り人が釣った魚を買う方法もある。

ー仲介するような仕事、バイヤーならいけるかも?

保田:そうそう。

寒川:いけるな!(笑)


[その日捕れたウナギを売りに来た、林さんが登場

ー保田さんも、釣り人さんから魚を買ってるんですか?

保田:うん、買ってるよ。今年からそんな仲介みたいなことも、し始めた。

:私ら、小作やもんね(笑)。

ー本物のウナギ、初めて見ました!

一同:はじめてかい!(笑)ウナギに本物もウソ物も無いで!(笑)

保田:ウナギの箱筒(しかけ)もネット予約で売ってるんですよ。公務員の頃、林業に関わってたから、木材は紀州材ってこだわりがある、一応な!

箱筒にかかったウナギ

 

ーこのウナギは、この後どうなるんですか?

保田:大阪行きやな。もしくは自分で捌いて出荷する。

ー今は注文入ってるんですか?

保田:ウナギは捌いたらいくらでも買うぞ、って人がいる。ウナギはな!アユが美味しいって、みんなに広めておいて〜(笑)。釣り人さん、ここに何人もいてるから!(笑)

ー店頭販売はしてる?

保田:してない。基本ネットで真空パックにして冷凍、発送してる。

ーホームページの電話番号に電話して注文して、注文が入ったら捕りに行く?

保田:そうやね。毎日発送するのは無理なんですよ。漁にも行かないとあかんでしょ。だから、週1、2回ぐらいで発送日を決めてやってます

 

ー店頭では焼いてないんですよね?

保田:してない。みんな、そう言うんよ〜(笑)。

森岡:俺が時給500円で焼こうか〜?(笑)

日高川町への思い

ー日高川町が「もっとこうなってくれたらいいな!」って思うことはありますか?

保田:もっと釣り人が増えてほしいな〜。川釣りの魅力に気づいてほしいし、日高川町にも川釣りを盛り上げてもらえたら嬉しいな

あとは(おとり屋付近の)携帯電話の電波を通してほしい(笑)。これは、僕のためじゃなくて。アユ釣りする人は年配の人が多いから、携帯電話が通じたら家族も安心やと思うんよ。

川に来る人の安全のために何とかしてほしいな、って。僕は「おとり屋にいたら、ぜったい携帯は繋がりません」ってホームページにも載せてる(笑)。

 

地元の子どもさんは、高校生になると通学できる高校がないから、みんな寮に入ってしまう。だから、地元に居るうちに自然の遊びを体験しておいてほしいな、って。

ここの遊びは魅力的だから。逆に僕は若い子にインターネットとか教えてほしい。

ー川遊びも釣りも、すごく魅力的だと思います!

保田:そう思ってくれるのは、地元の人間よりも他所から来た人のほうが言うてくれる。

僕が川遊びや釣りの魅力を伝えるために、協力できることがあれば協力します


プロフィール

保田直樹(やすだ・なおき)さん

27年間、公務員として林業に携わる。父の生き方や同業者のライフスタイルを見る中で、自分の人生を見つめ直す。祖父から教わった大好きな釣りを仕事にしよう!と、2020年3月に公務員を退職し、夢だった川漁師の道へ。天然の川魚、特に香りのいい「寒川アユ」の魅力を伝えたい!と日々、奮闘中。

購入する際の連絡先が記載されています。記事に記載のとおり、おとり屋は電波が入っていないので(笑)、SMSで事前にご要件を入れると連絡が取りやすいそうです。

日高川の最新情報日々の活動の様子がタイムリーに見れます。

ABOUT US
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佐藤 礼(さとうあや)インタビュアー
岩手県奥州市出身。2021年2月に日高川町へ単身移住。移住後に自身が感じた日高川町や田舎暮らしの良さを伝えたい!とインタビュアーとして活動中。ライター、看護師、農業、SNS運用などパラレルワーカーとして人生を楽しんでいる。 インタビューのご依頼等はコチラから。